「駅から近い人気エリアなら、多少利回りが低くても安心」——本当にそうでしょうか。
このシリーズ「この物件、買っていい?」では、実際に売りに出ている物件の数字を借りて、Propilarで判定します。第1回は、首都圏の人気駅から徒歩5分の一棟アパートです。
ℹ この記事の前提
物件の数字は、2026年9月に不動産ポータルサイトへ掲載されていた実在物件のものです。所在地・物件名は伏せています。融資条件(金利・借入割合・期間)と空室率は、判定のために置いた仮定です。判定結果は入力条件と評価基準によって変わります。投資判断はご自身の責任で行ってください。
対象物件
物件種別: 一棟アパート(木造2階建て・8戸)
立地: 首都圏の人気駅から徒歩5分(ターミナル駅も徒歩圏)
築年: 2005年築
物件価格: 1億2,000万円
表面利回り: 5.32%(満室想定の年間賃料 638.4万円 / 月53.2万円)
判定に使った仮定は次のとおりです。
借入額: 1億800万円(物件価格の9割)
金利: 2.5%
返済期間: 25年
空室率: 10%
判定:リスク要因多い
Propilarの判定は 「リスク要因多い」 でした。
| 指標 | 結果 | Propilarの目安 |
|---|---|---|
| 実質利回り(FCR) | 3.68% | 5%以上で良好、3%未満で要注意 |
| 月次キャッシュフロー | −87,429円 | プラスであること |
| DSCR | 0.82 | 1.3以上で良好、1.0未満はリスク |
| BER(損益分岐入居率) | 105.4% | 70%以下で良好、85%超はリスク |
| CCR(自己資金配当率) | −4.88% | 5%以上で良好、0%未満はリスク |
リスク要因として挙がったのは、CCR・月次CF・NPV・DSCR・BER・感度分析の6つ。金利上昇・空室増加・賃料下落の3つのストレスシナリオすべてで、税引前キャッシュフローが赤字になります。
なぜ赤字になるのか
1. 家賃収入で返済をまかなえていない(DSCR 0.82)
お金の流れを1年分で追うと、次のようになります(運営費・NOI・年間返済額は、Propilarの結果から逆算した概算です)。
満室想定の年間賃料(GPI): 638.4万円
空室損(10%): −63.8万円
空室を引いた収入(EGI): 574.6万円
運営費: 約−99万円
運営費を引いた純収益(NOI): 約476万円
年間のローン返済額: 約−581万円
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手残り(税引前CF): 約−105万円(月 約−8.7万円)
DSCR(NOI ÷ 年間返済額)が 0.82 ということは、家賃から経費を払った残りで、返済の8割強しか払えないという意味です。残りの約105万円は、毎年ご自身の財布から出ていきます。
→ DSCRの詳しい意味は「DSCRとは?」で解説しています。
2. 満室でも赤字(BER 105.4%)
BER(損益分岐入居率)は、「経費と返済を払って収支がトントンになる入居率」です。この物件は 105.4%。
入居率は100%を超えられないので、8戸すべてが埋まっていても赤字という計算になります。空室が1戸出るたびに、赤字はさらに膨らみます。
3. 借りるほど損をする(FCR 3.68% < K% 5.38%)
借入を使って収益を増やせるか(レバレッジの正負)には、2つの判定方法があります。
- 金利で比べる(簡易判定): FCR 3.68% − 金利 2.5% = +1.18%。この基準では「プラス」に見えます
- K%(ローン定数)で比べる(Propilarの判定): K%は「年間の元利返済額 ÷ 借入額」で、この条件では 5.38%。FCR 3.68%はこれを下回るため、**借りるほど手残りが減る「逆レバレッジ」**です
金利だけを見ると見落としますが、実際に毎年払うのは利息だけでなく元本も含めた返済額です。25年という比較的短い返済期間では元本返済の負担が大きく、K%が金利を大きく上回ります。
⚠ 「立地が良い=収支が良い」ではない
駅近・人気エリアは空室リスクが低く、将来売りやすいという長所があります。ただしその分、価格が高く利回りが低くなりがちです。利回りが低い物件を9割融資で買うと、入居が安定していても毎月の持ち出しが続く構造になります。
どうすれば「買える」数字になるか
この物件そのものが悪いわけではありません。問題は 価格と融資条件の組み合わせ です。判定を変える方向性は次の3つです。
- 自己資金を増やす: 借入を減らせば年間返済額が下がり、DSCRが改善します
- 返済期間を延ばす: K%が下がり、毎月の返済負担が軽くなります(ただし総支払利息は増えます)
- 価格交渉をする: 表面利回りが上がれば、FCRとDSCRが同時に改善します
どの条件ならDSCRが1.0を超えるかは、Propilarで借入額や期間を動かすとその場で確認できます。
この物件の条件で、自分でも判定してみる
上の物件価格・賃料・融資条件を入力した状態でPropilarが開きます(登録不要)。借入額や返済期間を変えて、判定がどう変わるか試してみてください。所在地を入れると地域需要も含めて判定できます。
この条件でPropilarを開くまとめ
- 駅徒歩5分・1億2,000万円の木造アパート(表面利回り5.32%)を、融資9割・金利2.5%・25年で判定すると 「リスク要因多い」
- DSCR 0.82、BER 105.4%で、満室でも毎月約8.7万円の持ち出し
- 金利基準のイールドギャップはプラスでも、K%基準ではレバレッジが逆効果
- 立地の良さと収支の良さは別物。価格と融資条件の組み合わせで判断する
次回も、実際に掲載されている物件の数字で「買っていいか」を判定します。