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普通借家契約と定期借家契約の違い|収益への影響

普通借家は借主保護が強く、賃料の値上げや明渡しが困難です。定期借家との違い、賃料水準への影響、出口戦略での使い分けを実務ベースで解説します。

「2年契約だから2年後には出ていってもらえる」——賃貸借契約でこう考えているなら、認識を修正する必要があります。

日本の賃貸借の大半を占める普通借家契約では、契約期間が満了しても貸主から更新を拒絶することは原則できません。賃料の値上げにも借主の同意が必要です。つまり一度入居してもらった条件は、実質的に貸主側から変更できないということです。

一方、期間満了で確実に契約が終了する定期借家契約という選択肢もありますが、こちらは賃料水準が下がるトレードオフがあります。

この記事では、両者の違いと、収益・出口戦略にどう影響するかを整理します。

2つの契約形態の違い

項目普通借家契約定期借家契約
契約の更新原則更新される(法定更新あり)更新されない(期間満了で終了)
貸主からの更新拒絶正当事由が必要(実務上ほぼ困難)不要(期間満了で当然終了)
賃料の値上げ借主の同意が必要再契約時に条件変更可能
契約期間1年以上(1年未満は期間の定めなしとみなされる)制限なし(1年未満も可)
借主からの中途解約特約により可能(通常1か月前予告)原則不可(居住用200㎡未満の例外あり)
契約方法口頭でも成立(書面が通常)公正証書等の書面が必須+事前説明書面が必須
賃料水準相場どおり相場より5〜20%程度低いことが多い
再契約双方合意すれば可能(自動ではない)

⚠ 「正当事由」のハードルは極めて高い

普通借家契約で貸主が更新を拒絶するには、借地借家法28条の「正当事由」が必要です。裁判所は貸主・借主双方が建物を必要とする事情、賃貸借の経過、建物の現況、立退料の提供を総合考慮して判断します。実務上、老朽化による建替えであっても相当額の立退料(賃料の6〜24か月分+引越費用等が目安とされる)を支払って合意退去を目指すのが通常です。「契約期間が終わったから出ていってほしい」は理由になりません。

定期借家契約が無効になる要件

定期借家契約は要件が厳格で、手続きを1つでも欠くと普通借家契約とみなされます

定期借家契約の必須要件

1. 契約が公正証書等の「書面」(または電磁的記録)でなされていること
2. 契約書とは別個の書面で、
   「更新がなく期間満了により終了する」ことを
   契約締結前に借主へ交付して説明していること
3. その説明を借主が受けたことが確認できること

要件を欠いた場合
→ 定期借家としての効力が否定され、普通借家契約として扱われる
→ 更新拒絶ができなくなる

⚠ 事前説明書面の交付漏れが最も多い

実務で最も多いミスが、「契約書とは別個の書面での事前説明」の省略です。契約書の中に定期借家である旨を記載しただけでは要件を満たしません。最高裁も別個の書面が必要である旨を判示しています。管理会社に任せる場合でも、事前説明書面が交付されているか、その控えが保管されているかを確認してください。ここを外すと、定期借家のつもりが普通借家になります。

また、期間が1年以上の定期借家では、期間満了の1年前から6か月前までの間に終了通知を出す必要があります。この通知を怠ると、通知した日から6か月を経過するまで終了を主張できません。

収益への影響

賃料水準のトレードオフ

定期借家は借主にとって「いつまで住めるか不確実」という不利があるため、同条件の物件より賃料を下げないと成約しにくいのが実情です。

普通借家で募集

募集賃料:70,000円 / 月
年間賃料:840,000円
6戸すべて普通借家:504万円 / 年

賃料の値上げ:借主の同意が必要
明渡し:正当事由+立退料が必要

定期借家(2年)で募集

募集賃料:63,000円 / 月(10%減)
年間賃料:756,000円
6戸すべて定期借家:453.6万円 / 年
→ 年間50.4万円の減収

賃料の改定:再契約時に可能
明渡し:期間満了で確実

年間50万円の減収は、NOI 320万円の物件なら約16%の収益低下です。全戸を定期借家にするのは、収益面では割に合わないことが多くなります。

空室率への影響

定期借家は再契約に双方の合意が必要なため、入退去のサイクルが早まる傾向があります。回転が早いほど、原状回復費と広告料(AD)の発生頻度が上がります。

入居期間が短くなることのコスト

平均入居期間4年の場合(普通借家)
10年間の入退去回数:約2.5回
原状回復費(1回10万円)+AD(1か月7万円)=17万円 × 2.5 = 42.5万円

平均入居期間2年の場合(定期借家)
10年間の入退去回数:約5回
17万円 × 5 = 85万円

差:10年で42.5万円

契約形態による賃料差が収支に効く度合いを確認しましょう

Propilarなら賃料・空室率を変えたときのNOI・FCR・DSCR・キャッシュフローを即座に比較できます。定期借家で賃料を下げた場合の影響を数字で確認してください。

賃料を変えて収支インパクトを比較する

定期借家が有効に機能する場面

収益面では不利でも、定期借家が明確に有利になる場面があります。

場面理由
数年後に建替え・大規模改修を予定期間満了で確実に明渡しを受けられる
数年後に自己使用・売却(更地渡し)を予定立退料なしで空室化できる
入居者トラブルのリスクを抑えたい問題があれば再契約しないという選択ができる
転勤等による一時的な賃貸(リロケーション)帰任時に確実に戻れる
賃料の下落局面再契約時に賃料を市場に合わせて改定できる

✓ 出口から逆算して契約形態を選ぶ

契約形態の選択は、出口戦略から逆算するのが最も合理的です。5年後に更地として売却する計画があるなら、今から定期借家(3年など)で募集しておけば立退交渉が不要になります。逆に長期保有で安定運用を狙うなら、賃料水準を優先して普通借家を選ぶのが妥当です。「どちらが優れているか」ではなく「何年後に何をしたいか」で決まります。

購入時に確認すべきこと

既存物件を購入する場合、賃貸借契約は買主に承継されます。売主が結んだ条件をそのまま引き継ぐことになるため、契約内容の確認は必須です。

購入前に確認する

契約形態
□ 各戸が普通借家か定期借家かをレントロールで確認した
□ 定期借家の場合、事前説明書面の控えが保管されているか確認した
□ 定期借家の期間満了日と終了通知の要否を確認した

契約条件
□ 賃料改定に関する特約の有無
□ 中途解約の予告期間(借主側)
□ 更新料の有無と金額
□ 原状回復の負担区分(特約の内容)
□ ペット・楽器・事務所使用等の特約

出口への影響
□ 建替え・更地売却の予定があるか
□ ある場合、明渡しに必要な立退料を試算したか
□ 立退料を購入価格の交渉材料にできるか検討したか

ℹ 立退料は購入価格に織り込む

将来の建替えや更地売却を前提に物件を買う場合、入居者の立退料は取得原価の一部として扱うのが実務的です。6戸で1戸あたり100万円なら600万円。これを購入価格に上乗せしたコストとして、収益価格・積算価格と比較して判断してください。レントロールで満室であることが、この場合はむしろ負担になります。

まとめ

  • 日本の賃貸借の大半は普通借家契約。期間が満了しても貸主から更新を拒絶することは原則できない
  • 更新拒絶には正当事由が必要で、実務上は立退料(賃料の6〜24か月分等)を払って合意退去を目指す
  • 賃料の値上げも借主の同意が必要。入居時の条件は貸主側から変更できないと考えておく
  • 定期借家契約は期間満了で確実に終了するが、公正証書等の書面 + 別個の書面による事前説明が必須。欠けると普通借家になる
  • 定期借家は賃料が相場より5〜20%程度低くなりやすく、入退去サイクルも早まる。例では年間50.4万円の減収
  • 定期借家が有効なのは建替え・更地売却・リロケーション・賃料下落局面など、出口が決まっている場合
  • 購入時、賃貸借契約は買主に承継される。契約形態・特約・立退料の見積りを購入前に確認する
  • 契約形態は「どちらが優れているか」ではなく「何年後に何をしたいか」で決める

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