悪質な不動産投資の提案は、嘘をつくとは限りません。本当のことだけを言って、都合の悪い数字を出さない——これが最も多いパターンです。
「節税になります」も「家賃保証があります」も、それ自体は事実です。問題は、その裏で発生するコストや将来の変化が資料に載っていないことにあります。だからこそ、話の真偽を議論するのではなく数字を1つずつ埋めていけば判断できます。
この記事では、判断を歪めやすい7つの営業パターンと、それぞれをどの数字で検証すればよいかを整理します。
1. 「節税になります」
最も多い切り口です。給与所得と不動産所得を損益通算して所得税・住民税の還付を受ける、という説明自体は正しい仕組みです。
問題は「なぜ赤字なのか」にあります。
節税が発生する構造
不動産所得が赤字
↓
給与所得と損益通算
↓
課税所得が下がる
↓
所得税・住民税が還付される
赤字の内訳は2種類
(A)減価償却による帳簿上の赤字 → 現金は減っていない
(B)家賃収入 < 経費+利息 という実際の赤字 → 現金が減っている
(A)なら意味がありますが、(B)は現金を失って税金の一部が戻ってくるだけです。100万円の現金赤字に対して還付が33万円なら、差し引き67万円の損失です。
⚠ 検証する数字:税引後キャッシュフロー
「節税」を持ち出された場合、確認すべきは還付額ではなく税引後キャッシュフローです。「還付を含めた年間の手残りはいくらですか」と聞き、マイナスなら節税ではなく損失です。加えて、減価償却は期間が終われば消えるため、償却終了後の税引後キャッシュフローも必ず出してもらってください。
2. 「家賃保証(サブリース)があるので空室リスクはゼロ」
サブリース契約自体は違法でも詐欺でもありませんが、保証賃料は改定されるという前提が説明されないことがあります。
| 説明されること | 説明されないことがある内容 |
|---|---|
| 空室でも保証賃料が入る | 保証賃料は2年ごとなどに改定される |
| 30年一括借上げ | 事業者側からの解約条項が存在する |
| 管理の手間がかからない | 免責期間(当初数か月は賃料なし)がある |
| 安定収入 | 保証賃料は相場の80〜90%(10〜20%が事業者の取り分) |
確認すべき契約条項
□ 賃料改定の条項(改定周期・改定基準・下限の有無)
□ 免責期間(新築時・入居者退去時に賃料が発生しない期間)
□ 事業者からの解約条項と予告期間
□ 原状回復・修繕費の負担区分
□ 指定業者による修繕の強制条項の有無
⚠ 検証する数字:サブリースなしの収支
サブリース物件を検討する場合は、サブリースがない前提の収支を必ず計算してください。保証賃料ではなく実勢賃料と現実的な空室率でDSCRがいくつになるか。それが物件本来の実力です。改定や解約でサブリースが外れた瞬間、その数字が現実になります。
3. 「年金代わりになります」
「35年後にローンを完済すれば家賃がそのまま年金になる」という説明です。
計算上は正しいのですが、35年後の物件が今と同じ家賃を生む前提が置かれています。
現在の家賃:100,000円 / 月
35年後も:100,000円 / 月
完済後の年間収入:120万円
「これが年金代わりになります」
現在の家賃:100,000円 / 月
年0.7%の賃料下落を想定
35年後:約78,000円 / 月
管理費・修繕積立金(増額後):▲25,000円
管理委託料・固都税等:▲8,000円
実質手残り:約45,000円 / 月=年54万円
さらに築35年時点の大規模修繕・設備更新が別途必要
ℹ 検証する数字:賃料下落と修繕を織り込んだ長期収支
「年金代わり」を検証するには、年0.5〜1.0%の賃料下落と修繕積立金の増額を織り込んだ35年分の収支を出してもらってください。加えて、35年後の物件は築35〜70年です。その時点で入居者が付く立地かどうかを、人口動態から確認する必要があります。
4. 「今決めないと他の方に決まります」
判断を急がせる手法です。物件情報に希少性があるのは事実ですが、急かされて判断を省略したことによる損失は、機会損失より大きくなります。
急かされたときに確認すること
□ レントロールの原本を見せてもらえるか
□ 賃料の入金履歴(通帳)を確認させてもらえるか
□ 管理組合の議事録・長期修繕計画を確認できるか(区分の場合)
□ 現地を自分で見に行く時間があるか
□ 融資の内諾を得てから契約できるか
これらのいずれかを断られる場合、その時点で見送る
良い物件は確かに早く決まります。しかし検証させない物件に良い物件はありません。検証の時間を与えないこと自体が判断材料です。
5. 「フルローンが出るので自己資金は不要」
融資が出ること自体は、その物件が良いことの証明にはなりません。
金融機関が見ているもの
・借入人の属性(年収・勤務先・信用情報)
・物件の担保評価(積算価格)
金融機関が保証していないもの
・投資として利益が出るか
・空室・賃料下落に耐えられるか
・出口で残債を回収できるか
⚠ 検証する数字:DSCRと5年後の残債 vs 売却価格
フルローン・オーバーローンを提案されたら、DSCRと5年後の残債と想定売却価格の関係を確認してください。残債が売却価格を上回る期間が長いほど、市況が悪化しても撤退できなくなります。「融資が出る」は「投資として成立する」の代わりにはなりません。
6. 表面利回りだけを提示してくる
物件資料に表面利回りしか載っていない場合、それ以外の数字が悪い可能性があります。
| 提示される指標 | 本来必要な指標 |
|---|---|
| 表面利回り(年間賃料 ÷ 物件価格) | FCR(NOI ÷ 総投資額) |
| 満室想定年収 | 現況賃料 + 現実的な空室率 |
| — | DSCR(NOI ÷ 年間返済額) |
| — | 税引後キャッシュフロー |
表面利回り8%の物件を分解する
年間賃料収入(満室想定):400万円
物件価格:5,000万円
表面利回り:8.00%
実勢賃料(レントロールから):360万円
空室率10%を反映:324万円
運営費(賃料の20%):▲72万円
NOI:252万円
諸費用(物件価格の8%):400万円
総投資額:5,400万円
FCR = 252万円 ÷ 5,400万円 = 4.67%
→ 表面利回り8.00% と FCR 4.67% の差は3.33ポイント
営業資料の数字を自分で検証しましょう
Propilarなら物件価格・賃料・空室率・融資条件を入力するだけでFCR・DSCR・CCR・税引後キャッシュフローが自動計算されます。提案された数字が妥当か、その場で確認できます。
提案された物件を自分で分析する7. 「相場より安い」の根拠が示されない
「本来7,000万円の物件が5,000万円で出ています」といった説明には、必ず根拠を求めてください。
価格の妥当性を検証する2つの方法
(1)収益価格から
妥当価格 = NOI ÷ 市場Cap Rate
NOI 252万円 / 市場Cap Rate 6.0%
→ 4,200万円
(2)積算価格から
土地の積算 + 建物の積算(再調達価格 × 残存年数 ÷ 耐用年数)
→ 3,800万円
売出価格5,000万円は、収益価格・積算価格のいずれも上回る
→ 「相場より安い」という説明は成立しない
✓ 安いことには必ず理由がある
本当に相場より安い物件には理由があります。再建築不可、借地権、旧耐震、接道義務違反、心理的瑕疵、大規模修繕の直前、既存不適格など。理由が説明されないまま「安い」とだけ言われる場合、理由を自分で探す必要があります。重要事項説明書と登記簿謄本、法令上の制限を確認してください。
検証のためのチェックリスト
資料で確認する
□ 表面利回りではなくFCRを計算した
□ 満室想定ではなくレントロールの現況賃料で計算した
□ 諸費用を含む総投資額で分母を取った
□ DSCRが1.3以上あることを確認した
□ 税引後キャッシュフローがプラスであることを確認した
□ 減価償却終了後の税引後キャッシュフローも確認した
原本で確認する
□ 賃貸借契約書の原本を見た
□ 賃料の入金履歴を確認した
□ 重要事項説明書・登記簿謄本を確認した
□ 区分の場合、管理組合の議事録・長期修繕計画を確認した
ストレスをかける
□ 金利+2%でのDSCRを計算した
□ 空室率15%でのDSCRを計算した
□ 5年後・10年後の残債と想定売却価格を比較した
進め方
□ 検証の時間を確保できている
□ 現地を自分で確認した
□ 少なくとも1日は持ち帰って判断した
まとめ
- 悪質な提案の多くは嘘ではなく「都合の悪い数字を出さない」形を取る。だから数字で検証できる
- 節税:確認すべきは還付額ではなく税引後キャッシュフロー。償却終了後も必ず出してもらう
- 家賃保証:賃料改定・免責期間・解約条項を契約書で確認。サブリースなしの収支が物件の実力
- 年金代わり:年0.5〜1.0%の賃料下落と修繕積立金の増額を織り込んで35年分を計算する
- 急かす:検証の時間を与えないこと自体が判断材料。原本の開示を断られたら見送る
- フルローン:融資が出ることは投資の成立を保証しない。DSCRと出口の残債で判断する
- 表面利回りのみ提示:FCR・DSCR・税引後キャッシュフローを自分で計算する
- 「相場より安い」:収益価格と積算価格の両方で検証する。安いことには必ず理由がある
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