購入して数年は毎年還付を受けていたのに、ある年を境に収支は変わっていないのに税金だけが急に増えた——築古物件の投資家が最もよく遭遇するのが、この「デッドクロス」です。
デッドクロスは相場の急変でも入居状況の悪化でもありません。購入した瞬間に、何年目に発生するかがほぼ確定している構造的な現象です。つまり、買う前に計算できます。
この記事では、デッドクロスが起きる仕組み、発生時期の求め方、そして購入前・購入後それぞれで取れる対策を数字で解説します。
デッドクロスとは何か
デッドクロスの定義はシンプルです。
デッドクロス = 年間の減価償却費 < 年間のローン元金返済額
となった状態
なぜこれが問題になるのかは、「経費になるが現金は出ていかないもの」と「現金は出ていくが経費にならないもの」の関係を見ると分かります。
| 項目 | 現金の動き | 経費になるか |
|---|---|---|
| 減価償却費 | 出ていかない | なる |
| ローン利息 | 出ていく | なる |
| ローン元金返済 | 出ていく | ならない |
減価償却費は「現金は出ていかないのに経費になる」ため、課税所得を押し下げてくれます。一方、元金返済は「現金は出ていくのに経費にならない」ため、手残りだけを削ります。
ℹ 2つの線が交差するから「クロス」
新築・築浅を除けば、減価償却費は償却期間が終わると一気にゼロになります。対して元金返済額は元利均等返済なら年を追うごとに増えていきます。減っていく線(減価償却)と増えていく線(元金返済)が交差する点がデッドクロスです。
なぜ築古の木造が最も早くデッドクロスを迎えるか
デッドクロスの発生時期を決めるのは償却期間とローン返済期間の差です。
中古物件の減価償却期間は、法定耐用年数を超えているかどうかで計算式が変わります。
法定耐用年数(住宅用)
木造:22年
軽量鉄骨(骨格材3mm超4mm以下):27年
重量鉄骨(骨格材4mm超):34年
RC造・SRC造:47年
耐用年数を超過している場合
償却年数 = 法定耐用年数 × 0.2(1年未満切り捨て、最低2年)
耐用年数の一部が残っている場合
償却年数 = (法定耐用年数 - 経過年数)+ 経過年数 × 0.2
築25年の木造アパートなら、22年 × 0.2 = 4.4 → 償却期間はわずか4年です。ところがローンは15年・20年で組むことが多い。この差がそのままデッドクロスになります。
| 構造・築年数 | 償却期間 | 想定ローン期間 | デッドクロス発生 |
|---|---|---|---|
| 木造・築25年 | 4年 | 15〜20年 | 5年目 |
| 木造・築15年 | 11年 | 20年 | 12年目 |
| 重量鉄骨・築30年 | 6年 | 20年 | 7年目 |
| RC造・築20年 | 32年 | 25〜30年 | 発生しにくい |
| RC造・新築 | 47年 | 30〜35年 | 発生しない |
⚠ 「4年償却で節税できます」の裏側
築古木造の短期償却は「4年間で建物価格を一気に経費化できる」節税手法として紹介されます。しかしそれは裏を返せば「5年目から経費が消える」ということです。節税効果と引き換えに、5年目以降の税負担増を前借りしているにすぎません。
数字で見るデッドクロス
築25年の木造アパートを例に、4年目と5年目で何が起きるかを見ます。
物件条件
物件価格:4,000万円(土地1,500万円 / 建物2,500万円)
構造・築年数:木造・築25年 → 償却期間4年
年間家賃収入:400万円
運営費(空室損失・管理費・固定資産税・修繕費等):80万円
NOI:320万円
借入条件
借入額:3,600万円
金利:2.5%(元利均等)
返済期間:20年
年間返済額:約229万円
減価償却費:2,500万円 ÷ 4年 = 625万円/年(1〜4年目のみ)
NOI:320万円
年間返済:229万円(利息78万円/元金151万円)
税引前CF:+91万円
減価償却:625万円
課税所得:320 − 78 − 625 = ▲383万円
還付:+126万円(給与所得と損益通算)
税引後CF:+217万円(91万円 + 126万円)
NOI:320万円(変わらず)
年間返済:229万円(利息73万円/元金156万円)
税引前CF:+91万円(変わらず)
減価償却:0円
課税所得:320 − 73 − 0 = +247万円
税金:▲81万円(所得税・住民税合計33%と仮定)
税引後CF:+9.5万円(91万円 − 81万円)
家賃も空室率も金利も一切変わっていないのに、還付を含めた手残りは217万円から9.5万円へ、約96%減少しました。税引前CFは91万円のまま動いていません。これがデッドクロスの正体です。
デッドクロスの判定式に当てはめると、以下のようになります。
4年目:減価償却625万円 > 元金返済151万円 → 正常
5年目:減価償却 0万円 < 元金返済156万円 → デッドクロス
さらに悪いことに、元金返済額は元利均等返済では毎年増え続けます。10年目、15年目と進むほど「経費にならない現金流出」の比率が高まり、税負担はさらに重くなります。
発生時期を購入前に計算する手順
デッドクロスは購入前に、次の4ステップで特定できます。
- 建物価格を確定する(売買契約書の建物・土地の按分、または固定資産税評価額の比率で按分)
- 償却年数を計算する(前述の中古資産の計算式)
- 年間減価償却費を出す(建物価格 ÷ 償却年数)
- 返済予定表の元金部分と比較し、交差する年を探す
チェック手順の例
□ 建物価格:2,500万円
□ 構造・築年数:木造・築25年
□ 償却年数:22年 × 0.2 = 4年
□ 年間減価償却費:2,500万円 ÷ 4年 = 625万円
□ 返済予定表を見る → 5年目の元金返済額:156万円
□ 5年目に 0 < 156 で交差 → デッドクロスは5年目
□ 5年目以降の課税所得を試算した
□ 5年目以降の税引後キャッシュフローがプラスであることを確認した
⚠ 土地建物の按分割合が節税額を左右する
デッドクロスの計算はすべて建物価格から始まります。建物価格の按分割合が高いほど減価償却費は大きくなりますが、その分デッドクロス後の反動も大きくなります。按分は売買契約書での明記、固定資産税評価額比率、不動産鑑定など合理的な根拠が必要です。恣意的に建物比率を高くすると税務調査で否認されるリスクがあります。
デッドクロス後の手残りまで試算していますか?
Propilarなら減価償却と元金返済を織り込んだ税引後キャッシュフローを保有期間全体で計算できます。償却が終わる年に手残りがマイナスにならないかを購入前に確認してください。
税引後キャッシュフローを年ごとに試算するデッドクロスへの対策
対策は「購入前に打てるもの」と「購入後に打てるもの」に分かれます。効果が大きいのは圧倒的に前者です。
購入前の対策
| 対策 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 償却期間の長い構造を選ぶ | RC造・重量鉄骨など法定耐用年数の長い構造なら償却期間も長く、交差そのものが起きにくい | 築古木造に比べ表面利回りは低くなる傾向がある |
| 返済期間を長めに確保する | 年間の元金返済額を抑え、デッドクロス後の手残りを厚くする | 総支払利息は増える |
| 出口を償却終了後に設定する | 償却が終わる時期を売却時期の起点として購入する | 長期譲渡(20.315%)の要件を満たす年まで待つ必要がある |
| 建物比率を過度に高くしない | 目先の還付より保有期間全体の税引後CFを優先する | 合理的な按分根拠は必須 |
⚠ 「返済期間を短くして償却期間に合わせる」は逆効果
「償却4年なら返済も4年にすれば交差しない」という発想は成り立ちません。借入3,600万円・金利2.5%を4年で返すと年間返済は約947万円、うち1年目の元金返済だけで約867万円です。減価償却625万円を初年度から上回り、1年目でデッドクロスに入ります。しかもDSCRは0.34——NOI 320万円では返済すらできません。合わせるべき方向は逆で、返済期間を長く取って年間の元金返済額を抑えることです。
購入後の対策
| 対策 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 繰り上げ返済で残債を減らす | 元金返済の総額を圧縮し利息も減らす | 手元資金が減り、次の物件取得力が落ちる |
| 大規模修繕を資本的支出として計上 | 新たな償却資産が生まれ、減価償却を再開できる | 修繕費として一括計上するか資本的支出とするかの判断が必要 |
| 次の物件を取得する | 新規物件の減価償却で全体の課税所得を圧縮する | 借入を増やすため、規模拡大の是非を別途判断する必要がある |
✓ 最も確実なのは「出口を先に決めておく」
築古木造で短期償却を狙う場合、償却期間が終わるタイミングを売却時期の起点として最初から織り込んでおくのが最も確実です。ただし注意点があります。長期譲渡所得(20.315%)と短期譲渡所得(39.63%)の判定は売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかで行うため、取得から5年経過していても足りません。2026年7月に取得した場合、長期が適用される最初の年は2032年です。償却は4年で終わるが、売れるのは6年目以降——この2年のズレを資金計画に織り込んでおいてください。
デッドクロスを過度に恐れる必要はないケース
すべての物件でデッドクロスが致命傷になるわけではありません。次の条件を満たしていれば、デッドクロス後も運営は続けられます。
- 税引後キャッシュフローがプラスを維持できる:償却ゼロで計算しても手残りが残る
- 返済期間が長くDSCRに余裕がある:DSCR 1.3以上なら税負担増を吸収しやすい
- RC造など償却期間が長い:そもそも交差が発生しない、または返済終了後になる
判断基準は「デッドクロスが起きるかどうか」ではなく、「デッドクロスが起きた年の税引後キャッシュフローがプラスかどうか」です。
まとめ
- デッドクロス = 減価償却費 < ローン元金返済額。収支が変わらないのに税金だけ増え、手残りが激減する
- 原因は「経費にならない元金返済」と「現金が出ない減価償却」のねじれ。相場や入居状況とは無関係の構造的な現象
- 築古木造は償却期間が4〜6年と極端に短いため、5年目前後で発生することが多い
- 上記の試算では、税引前CFは91万円で変わらないまま、還付込みの手残りが217万円から9.5万円へ約96%減少した
- 発生時期は購入前に計算できる。建物価格 → 償却年数 → 年間償却費 → 返済予定表の元金と比較、の4ステップ
- 対策は購入前が有効。償却期間と返済期間を近づける、出口を償却終了時期に合わせる、建物比率を過度に高くしない
- 判断基準は「起きるか」ではなく「起きた年の税引後キャッシュフローがプラスか」
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