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デッドクロスの収支シミュレーション|築古木造で何年目に来るか

築25年木造アパートを10年保有した場合の税引後キャッシュフローを年ごとに試算。5年目に手残りが205万円から17万円へ落ちる過程と、売却時の反動まで検証します。

デッドクロスの仕組みは理解していても、「自分の物件では何年目に、いくら減るのか」は数字を並べないと実感できません。

この記事では、築古木造アパートを1件、購入から10年分の収支を年単位で試算し、さらに売却して手仕舞いするところまでを追います。家賃も空室率も金利も一切変えず、減価償却と元金返済の関係だけで手残りがどう動くかを見ていきます。

結論を先に言うと、4年間で約830万円積み上がった手残りが、次の6年間では合計85万円にしかなりません。

シミュレーションの前提

物件条件
物件価格:4,000万円(土地1,500万円 / 建物2,500万円)
構造・築年数:木造・築25年
延床面積:160㎡(1K × 8戸)
年間満室賃料:480万円
空室率・運営費控除後のNOI:320万円

融資条件
借入額:3,600万円
自己資金:400万円 + 購入諸費用371万円 = 投下自己資金 771万円
金利:2.5%(元利均等・全期間固定と仮定)
返済期間:20年
年間返済額:約228.9万円(月190,765円)

減価償却
償却年数:22年 × 0.2 = 4.4 → 4年
年間減価償却費:2,500万円 ÷ 4年 = 625万円(1〜4年目のみ)

税率の仮定
所得税・住民税の合計税率:30%(一律と仮定)

ℹ 税率を一律30%としている理由

実際の所得税は累進課税のため、赤字を損益通算して課税所得が下がると適用される税率も下がります。したがって初期の還付額は一律30%で計算した額よりも小さくなるのが通常です。ここでは仕組みを見やすくするため一律としていますが、実際の試算では自分の課税所得と税率区分に当てはめて計算してください。

デッドクロスの発生年を特定する

まず判定式に当てはめます。デッドクロスは減価償却費 < 元金返済額になった年です。

減価償却費元金返済額判定
1年目625.0万円140.5万円正常
2年目625.0万円144.1万円正常
3年目625.0万円147.7万円正常
4年目625.0万円151.5万円正常
5年目0万円155.3万円デッドクロス
6年目以降0万円159.2万円〜デッドクロス継続

償却が4年で終わるため、5年目に確実に発生することが購入前の時点で分かります。しかも一度発生したら、完済まで解消しません。

10年間の収支推移

税引前キャッシュフロー(NOI − 年間返済額)は毎年91.1万円で一定です。変わるのは税金だけです。

減価償却支払利息元金返済不動産所得税金(▲)/還付(+)税引前CF税引後CF
1625.088.4140.5▲393.4+118.091.1209.1
2625.084.8144.1▲389.8+117.091.1208.0
3625.081.2147.7▲386.2+115.991.1206.9
4625.077.5151.5▲382.5+114.791.1205.8
5073.6155.3+246.4▲73.991.117.2
6069.7159.2+250.3▲75.191.116.0
7065.7163.2+254.3▲76.391.114.8
8061.6167.4+258.4▲77.591.113.5
9057.3171.6+262.7▲78.891.112.3
10053.0175.9+267.0▲80.191.111.0

※単位:万円

1〜4年目(償却あり)

期間:4年
税引前CF合計:364.3万円
還付合計:+465.6万円
税引後CF合計:829.9万円

年平均:207.5万円

5〜10年目(償却終了後)

期間:6年
税引前CF合計:546.5万円
税金合計:▲461.7万円
税引後CF合計:84.8万円

年平均:14.1万円

保有期間が1.5倍長い後半のほうが、手残りは10分の1です。年平均で見ると207.5万円が14.1万円へ、約93%減少しています。

⚠ デッドクロス後は「余裕がない」状態が続く

5年目以降の年間手残りは11〜17万円です。この水準では、給湯器の故障(1台20万円)や1戸の長期空室が発生しただけで年間収支がマイナスに転落します。デッドクロス後は突発費用への耐性がほぼ失われると考えてください。それでも返済は続くため、手元資金からの持ち出しになります。

出口を含めた最終損益

売却時の手取りを計算します。ここでデッドクロスとは別の重要な現象が現れます。

まず売却する年を決める必要がありますが、ここに落とし穴があります。

⚠ 「保有5年超」は取得日からではなく1月1日基準

長期譲渡所得(20.315%)と短期譲渡所得(39.63%)の判定は、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかで行います。取得から5年経過していても、売却年の1月1日時点で5年以下なら短期扱いです。2026年7月に取得した場合、2031年1月1日時点の所有期間は4.5年——5年目末に売却しても短期譲渡になります。長期が適用される最初の年は2032年、つまり6年目以降です。

売却条件(6年目末 / 売却年の1月1日時点で所有期間5年超)
想定売却価格:3,300万円(築31年木造)
譲渡費用(仲介手数料等):約116万円
ローン残債:2,701.7万円

譲渡所得の計算
取得費 = 土地1,500万円 + 建物の未償却残高0円 = 1,500万円
譲渡所得 = 3,300万円 − 1,500万円 − 116万円 = 1,684万円

長期譲渡所得税・住民税(20.315%)
1,684万円 × 20.315% = 342.1万円

売却手取り
3,300万円 − 116万円 − 342.1万円 − 2,701.7万円 = 140.2万円

⚠ 節税した分は売却時に取り戻される

建物2,500万円を4年で全額償却した結果、取得費が1,500万円(土地のみ)まで下がっています。取得時の簿価4,000万円のままなら、3,300万円での売却は譲渡損(3,300 − 4,000 − 116 = ▲816万円)です。それが償却によって譲渡益1,684万円に転じています。つまり減価償却は税金を消したのではなく、保有中の所得税を売却時の譲渡所得税に付け替えただけです。これを課税の繰延べと呼びます。なお業務用資産では、償却費相当額は実際に経費計上したかどうかにかかわらず取得費から差し引かれるため、「償却しない」という選択でこれを避けることはできません。

ℹ 本試算での取得費の簡略化

正確には取得費 = 購入価格 + 購入諸費用のうち取得費に算入すべきもの − 減価償却費の累計です。本試算では見通しを良くするため、購入諸費用371万円を取得年の必要経費として扱い、取得費に含めていません。実務では仲介手数料138.6万円は取得費に算入し、土地・建物へ按分します(土地分52.0万円は取得費、建物分86.6万円は償却対象)。これを織り込むと譲渡所得は約52万円減って税は約10.6万円減り、年間減価償却も625万円から約646.7万円に増えます。いずれも結果を有利な方向に動かすため、本試算は保守側の数字です。

では、この付け替えに意味はあったのでしょうか。数字で確認します。

保有中の還付合計(税率30%)        +465.6万円
売却時の譲渡所得税(税率20.315%)   ▲342.1万円

差引                            +123.5万円

還付を受けたときの税率(30%)より、売却時に払う税率(20.315%)のほうが低いため、差額の123.5万円だけが実際の利益です。これが築古短期償却の本当の効果——税率差を取ることであり、税金そのものが消えるわけではありません。

1年早く売るとどうなるか

前述の1月1日基準を見落として5年目末に売却すると、短期譲渡39.63%が適用されます。

5年目末に売却した場合(短期譲渡39.63%)
想定売却価格:3,400万円 / 譲渡費用:120万円 / 残債:2,860.9万円

譲渡所得 = 3,400万円 − 1,500万円 − 120万円 = 1,780万円
短期譲渡所得税・住民税 = 1,780万円 × 39.63% = 705.4万円

売却手取り
3,400万円 − 120万円 − 705.4万円 − 2,860.9万円 = ▲286.4万円

⚠ 1年の差で手取りが426万円変わる

6年目末に売れば+140.2万円、5年目末に売ると▲286.4万円の持ち出し——差は426.5万円です。しかも持ち出しということは、現金を用意できなければ売却そのものができません。さらに短期税率39.63%は還付時の税率30%を上回るため、税率差の効果もマイナスに反転します。償却期間が4年で終わっても、売却できる年まで保有し続ける前提で資金計画を立ててください。

投資全体の収支

投下自己資金
頭金400万円 + 購入諸費用371万円 = 771.0万円

回収額
1〜4年目の税引後CF合計:829.9万円
5年目:17.2万円 / 6年目:16.0万円
売却手取り(6年目末):140.2万円
回収合計:1,003.2万円

差引:1,003.2万円 − 771.0万円 = +232.2万円(6年間)

年ごとのキャッシュフローと売却手取りから求めたIRR
CF:▲771.0 → 209.1 → 208.0 → 206.9 → 205.8 → 17.2 → 156.2
IRR = 9.29%

6年間で232.2万円、IRRは9.29%です。単純に「232.2万円 ÷ 771万円 ÷ 6年 = 5.0%」と計算すると実態を過小評価します。回収の大半が最初の4年に前倒しで入っているため、資金効率としてはIRRのほうが高く出ます。裏を返せば、このリターンは初期4年の還付に依存しており、7年目以降も保有し続けると年率は下がっていきます

あなたの物件でデッドクロスが来る年を計算しましょう

Propilarなら物件価格・建物比率・築年数・融資条件を入力するだけで、減価償却と元金返済の推移、年ごとの税引後キャッシュフロー、売却時の手取りまで一括で試算できます。

保有期間全体の税引後CFを試算する

検討中の物件が何年目にデッドクロスを迎えるかは、この場で試算できます。

デッドクロス簡易判定|何年目に来るかを試算

残存耐用年数(償却年数)
年間減価償却費
デッドクロス発生

※ 概算です。 残存耐用年数は中古簡便法(年単位)、償却は定額法・建物のみ。デッドクロス = 減価償却費より元金返済額が大きくなる最初の年です。

税引後の手残り推移を年次で確認する

条件を変えると結果はどう変わるか

同じ物件でも、融資条件と出口の設計で結果は大きく変わります。

変更点5〜10年目の年平均 税引後CF効果
基準ケース(金利2.5% / 20年)14.1万円
返済期間を25年に延長51.3万円年間返済が約35万円減り、手残りが増える
頭金を800万円に増やす(借入3,200万円)37.4万円返済額が減りDSCRも改善するが、投下自己資金が771万円→1,171万円に増える
6年目末で売却デッドクロス期間を2年で切り上げる
建物比率を50%に抑える(建物2,000万円)14.1万円手残りは変わらないが還付が減り譲渡益も減る

※頭金を増やすケースは投下自己資金そのものが増えるため、手残り額だけでの単純比較はできません。資金効率で比べるならCCRまたはIRRで見てください。

✓ 最も効くのは「返済期間」と「出口のタイミング」

デッドクロスそのものは築古短期償却を選んだ時点で避けられません。効果があるのは元金返済額を下げること(返済期間の延長)と、デッドクロス期間を短くすること(長期譲渡の要件を満たした年での売却)の2つです。表のとおり、返済期間を20年から25年に延ばすだけで後半の年平均手残りが14.1万円から51.3万円へ改善します。追加の自己資金を必要としない分、頭金を400万円積み増す(37.4万円)よりも効率的です。ただし返済期間の延長は総支払利息が増えるため、売却時期とセットで判断してください。

この物件は「買い」だったのか

最終的な判断材料を整理します。

評価軸結果判定
DSCR320 ÷ 228.9 = 1.40基準1.3を満たす
FCR320 ÷ 4,371 = 7.32%妥当
CCR(1年目・税引後)209.1 ÷ 771 = 27.1%高いが持続しない
CCR(6年目・税引後)16.0 ÷ 771 = 2.1%低い
IRR(6年保有・売却込み)9.29%一定の水準

1年目のCCR 27.1%だけを見て判断すると、6年目の実態(2.1%)の約13倍を見ていることになります。この物件を評価するなら、少なくとも5年目以降の数字か、保有期間全体を通したIRRで見る必要があります。

まとめ

  • 築25年木造・償却4年・返済20年の物件では、デッドクロスは5年目に確実に発生する。購入前に特定できる
  • 税引前キャッシュフローは10年間91.1万円で一定。変動しているのは税金だけ
  • 税引後CFは1〜4年目の合計829.9万円(年平均207.5万円)に対し、5〜10年目は合計84.8万円(年平均14.1万円)。年平均で約93%減少
  • デッドクロス後は年11〜17万円しか残らず、給湯器交換1台でも年間収支がマイナスになる
  • 減価償却は税金を消すのではなく売却時の譲渡所得税へ付け替えている(課税の繰延べ)
  • 実際の利益は税率差のみ。還付時30% − 譲渡時20.315% で差引+123.5万円だった
  • 「保有5年超」の判定は売却年の1月1日基準。取得から5年経っていても、5年目末の売却は短期譲渡39.63%になる
  • 1年の差で売却手取りは+140.2万円と▲286.4万円(持ち出し)に分かれる。426.5万円の差
  • 改善策として最も効くのは返済期間の延長(後半の年平均が14.1万円→51.3万円)。頭金の積み増し(37.4万円)より効率的
  • 6年保有・売却込みのIRRは9.29%。1年目のCCR 27.1%は持続せず、6年目には2.1%まで下がる
  • 判断は保有期間全体のIRRか、償却終了後の数字で行う

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