「利回り8%なら毎月黒字のはず」——そう思って物件を買ったのに、実際には手元にほとんどお金が残らない。不動産投資でよく起きるこのギャップの正体が**キャッシュフロー(CF)**の計算を誤ることにあります。
キャッシュフローの計算式
不動産投資における税引前キャッシュフローは次の式で計算します。
税引前CF = NOI − 年間元利返済額(ADS)
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| NOI | 純営業収益(賃料収入 − 運営費用) |
| ADS | Annual Debt Service(年間元利返済額) |
ローン返済には「元本返済」と「利息」の両方が含まれます。毎月の返済額(元本+利息)× 12ヶ月 が ADS です。
具体的な計算例
物件価格2,000万円・月額賃料13万円・フルローン(金利2.5%・30年)の場合を例に計算します。
NOIの計算:
年間賃料(空室率5%): 156万円 × 0.95 = 148.2万円
運営費用(20%): 148.2万円 × 0.20 = 29.6万円
NOI: 118.6万円
ADSの計算:
月返済額(2,000万円・2.5%・30年): 約7.9万円
ADS = 7.9万円 × 12 = 94.8万円
税引前CF:
118.6万円 − 94.8万円 = 23.8万円(年間)≒ 月約2万円
⚠ 月2万円は「安全」ではない
月2万円の税引前CFは、エアコン1台交換(8〜15万円)で数ヶ月分が消えます。修繕リスクを考えると、これは「ギリギリ黒字」の水準です。
税引前CFと税引後CFの違い
多くの解説記事は税引前CFで計算を止めています。しかし実際に手元に残るのは税引後CFです。
税引後CF = 税引前CF − 所得税・住民税
※この式は初心者向けの簡略式です。実務では「不動産所得(賃料収入−必要経費−減価償却費)」に対して課税されるため、税額は減価償却・支払利息・所得区分によって変動します。
不動産所得は給与所得と合算して課税されます。給与所得が高い人ほど税率が高くなり、税引後CFは大きく下がります。
税引前CF: 月+2万円
→ 「黒字だから大丈夫」
→ 税金・修繕リスクを無視
税引前CF: 月+2万円
所得税(税率20%想定・概算): −約4.7万円/年
税引後CF: 月+1.6万円
修繕積立(月1万円): 実質手残り 月約6,000円
ℹ 減価償却による節税効果
初期は減価償却費を経費に計上できるため、帳簿上の赤字(≠実際の赤字)で所得税が減ることがあります。ただしこれは一時的な効果であり、減価償却が終わると税負担が増加します。節税を主目的にした投資判断は危険です。
CFがマイナスになる主な原因
キャッシュフローがマイナスになるパターンは主に3つです。
① ローン返済額が大きすぎる
フルローン・高金利・短期返済の組み合わせは ADS を押し上げます。同じ物件でも頭金を入れる・返済期間を延ばすことでCFが改善します。
② 空室・賃料下落
空室1ヶ月は賃料1ヶ月分の損失です。さらに入居募集費用(AD)が加算されます。空室率の想定が甘いと計算が大きく狂います。
③ 修繕費の突発的な発生
築古物件は給湯器・エアコン・排水管などの交換が突発的に発生します。CFがプラスでも、修繕積立を別途確保していなければすぐにマイナスになります。
CF改善のための判断軸
✓ CFを改善する3つのアプローチ
① 頭金を増やしてADSを下げる(ただしCCRとのトレードオフ)
② 高空室率・高修繕リスクの物件を避ける(築年・構造・立地を精査)
③ 賃料アップ余地のある物件を選ぶ(リノベーション後の賃料想定)
DSCRとCFの関係
CFのプラス・マイナスはDSCR(返済安全性の指標)と密接に関係します。
DSCR = NOI ÷ ADS
DSCR が 1.0 を下回る = CF がマイナスです。DSCR 1.2 以上が安全ラインとされる理由は、空室・修繕などの予期せぬ支出に対するバッファを持てるからです。
| DSCR | CF の状態 |
|---|---|
| 1.2以上 | 安全圏(バッファあり) |
| 1.0〜1.2 | 要注意(余裕が少ない) |
| 1.0未満 | 即マイナスCF |
複数条件でシミュレーションする重要性
CFは空室率・賃料・金利・修繕費の前提を変えるだけで大きく変わります。1つの条件だけで判断するのではなく、悲観シナリオ(空室率10%・金利上昇・修繕費増)でもプラスかどうかを確認することが重要です。
この複数条件のシミュレーションを手計算で行うのは非現実的です。
まとめ
- 税引前CF = NOI − ADS。まず計算すべき基本の数字
- 税引後CF が実際の手残り。給与所得との合算課税に注意
- CFマイナスの原因は「ADSが大きい」「空室」「修繕」の3つ
- DSCR 1.2以上でも修繕積立がなければ実質的にギリギリ
- 複数シナリオで確認することが現実的な判断につながる
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