「この物件、金利が上がっても大丈夫ですか?」「空室が増えたらどうなりますか?」——これらの問いに答えるのが感度分析です。購入判断の最終段階で必ず行うべき「最悪シナリオの確認」を、実例を使って手順ごとに解説します。
分析対象の物件
物件価格: 2,000万円
市場相場賃料: 月10万円(GPI 120万円)
OPEx: 24万円/年(GPI の20%)
NOI(満室ベース): 96万円(= GPI − OPEx)
融資条件(ベース):
借入額: 1,600万円(LTV 80%)
金利: 2.5%(変動)
融資期間: 30年
ADS: 75.6万円/年(月6.3万円、概算)
ベース収支(満室時):
NOI: 96万円(満室ベース。空室の影響は感度分析②で検証)
ADS: 75.6万円
CF: +20.4万円/年(月+1.7万円)
DSCR: 96 ÷ 75.6 = 1.27
FCR: 96 ÷ 2,000 = 4.8%
BER: 75.6 ÷ 120 = 63%
感度分析①:金利上昇の影響
変動金利が上昇した場合、ADSが増加し CFとDSCRが悪化します。
| 金利 | ADS(概算) | CF(年) | DSCR |
|---|---|---|---|
| 2.5%(ベース) | 75.6万円 | +20.4万円 | 1.27 |
| 3.0%(+0.5%) | 80.6万円 | +15.4万円 | 1.19 |
| 3.5%(+1.0%) | 85.7万円 | +10.3万円 | 1.12 |
| 4.0%(+1.5%) | 90.9万円 | +5.1万円 | 1.06 |
| 4.5%(+2.0%) | 96.2万円 | −0.2万円 | 1.00(危険) |
※ADS は元利均等返済の概算値です。
結論: 金利が2%上昇すると、CFがほぼゼロ・DSCRが1.0の危険ラインになります。変動金利で借りる場合、「金利+2%のシナリオでもDSCR ≥ 1.1 が維持できるか」を確認することが重要です。
⚠ 変動金利は2%上昇シナリオで確認する
2024年以降、日本でも金利上昇が現実となっています。変動金利でDSCRがギリギリの物件は、金利上昇で一気に赤字転落するリスクがあります。購入前に必ず「+2%シナリオ」を計算してください。
感度分析②:空室率悪化の影響
空室率が増加すると EGI が減少し、NOI・CF・DSCR が悪化します。
NOI の計算式(空室率を変数として):
NOI = GPI × (1 − 空室率) − OPEx × (1 − 空室率)
= (GPI − OPEx) × (1 − 空室率)
= (120 − 24) × (1 − 空室率)
= 96 × (1 − 空室率)
※OPEx は空室率に応じて変動費部分(管理費等)が減少するため、ここでは比例して減少すると仮定しています。
| 空室率 | NOI | CF(年) | DSCR |
|---|---|---|---|
| 5%(ベース) | 91.2万円 | +15.6万円 | 1.21 |
| 10% | 86.4万円 | +10.8万円 | 1.14 |
| 15% | 81.6万円 | +6.0万円 | 1.08 |
| 20% | 76.8万円 | +1.2万円 | 1.02 |
| 25% | 72.0万円 | −3.6万円 | 0.95(危険) |
結論: 空室率が25%を超えるとDSCR が1.0を割り込み、NOIだけではローン返済できなくなります。エリアの空室率が10〜15%程度なら収支は何とか維持できますが、余裕は少ない水準です。
感度分析③:賃料下落の影響
退去後に市場相場賃料が下落した場合の影響を確認します。
賃料下落時の NOI計算(空室率5%固定):
NOI = 賃料 × 12 × 0.95 × (1 − OPEx比率20%)
= 賃料 × 12 × 0.95 × 0.8
| 月賃料 | GPI | NOI(概算) | CF(年) | DSCR |
|---|---|---|---|---|
| 10万円(ベース) | 120万円 | 91.2万円 | +15.6万円 | 1.21 |
| 9万円(-10%) | 108万円 | 82.1万円 | +6.5万円 | 1.09 |
| 8万円(-20%) | 96万円 | 73.0万円 | −2.6万円 | 0.97(危険) |
| 7万円(-30%) | 84万円 | 63.9万円 | −11.7万円 | 0.85 |
結論: 賃料が20%下落するとDSCR が1.0を割り込みます。都市近郊では賃料下落は緩やかですが、地方・過疎化エリアでは10〜20%の下落が数年で起きることがあります。
複合シナリオ:「金利+1%・空室15%・賃料-10%」が同時に起きたら
最悪に近いシナリオで何が起きるかを確認します。
条件:
金利: 2.5% → 3.5%(+1.0%)
空室率: 5% → 15%
賃料: 月10万円 → 月9万円(-10%)
計算:
GPI(下落後): 9万円 × 12 = 108万円
EGI(空室15%): 108万円 × 0.85 = 91.8万円
OPEx(20%): 91.8万円 × 0.20 = 18.4万円
NOI: 91.8 − 18.4 = 73.4万円
ADS(金利3.5%・30年・借入1,600万円の目安):
≈ 85.7万円/年
CF: 73.4 − 85.7 = −12.3万円/年(月−1.0万円・赤字)
DSCR: 73.4 ÷ 85.7 = 0.86(深刻)
CF: +20.4万円/年(月+1.7万円)
DSCR: 1.27
FCR: 4.8%
→ 「安全な物件」と判断して購入
金利+1%・空室15%・賃料-10%が重なる
CF: −12.3万円/年(赤字)
DSCR: 0.86(ローン返済できない)
→ 年間12万円以上の持ち出しが続く
ℹ 複合シナリオが「絶対起きない」とは言えない
金利上昇・空室悪化・賃料下落が同時に起きる可能性はゼロではありません。特に景気後退局面では複数の悪化が同時に起きることがあります。「最悪でもDSCRが1.0を維持できるか」を購入前に確認することが重要です。
感度分析から見える「この物件の耐性」
【各シナリオの限界点】
金利上昇: +2.0%で赤字転落(限界金利 4.5%)
空室率: 25%超で赤字転落(BER約63%)
賃料下落: -20%で赤字転落(月8万円)
複合悪化: 金利+1%・空室15%・賃料-10%の重複で赤字
【この物件の総合評価】
・金利耐性:中程度(+2%まで)
・空室耐性:中程度(25%まで)
・賃料耐性:低め(-20%で赤字)
・複合シナリオ:弱い
→ ベースシナリオでは問題ないが、
複合リスクへの耐性は限定的。
変動金利よりも固定金利の方がリスク管理しやすい物件。
感度分析の手順まとめ
1. ベースシナリオを確定する
→ NOI・CF・DSCR・FCR・BER を計算
2. 金利上昇シナリオ(+0.5%・+1%・+2%)
→ ADS の変化から CF・DSCR を再計算
3. 空室悪化シナリオ(+5%・+10%・+20%)
→ NOI・CF・DSCR の変化を確認
4. 賃料下落シナリオ(-5%・-10%・-20%)
→ NOI・CF・DSCR の変化を確認
5. 複合シナリオ(金利+1%・空室+10%・賃料-10%)
→ 最悪に近い状況での収支を確認
6. 各シナリオで「DSCR が 1.0 を超えるか」を判断基準にする
まとめ
- 感度分析とは「前提条件が変わったら収支はどう変わるか」を事前に確認する手法
- 確認すべき3要素:金利上昇・空室率悪化・賃料下落
- 判断基準:各シナリオでDSCRが1.0を維持できるか
- 変動金利は「+2%シナリオ」で必ず確認する
- 複合悪化シナリオで赤字になるなら、購入価格交渉か固定金利への変更を検討する
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