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投資判断

法人化のタイミングと判断基準

不動産投資で個人から法人に切り替えるタイミングはいつが最適か。課税所得・物件規模・融資の観点から、法人化のメリット・デメリットと判断基準を解説します。

不動産投資を続けていると、「そろそろ法人化した方が良いのでは?」という話が出てきます。法人化には節税・融資・相続などのメリットがある一方、設立コスト・維持費・手続きの複雑さというデメリットもあります。「いつ法人化すれば良いか」は個人の税率・物件規模・融資状況によって異なるため、正解は一つではありません。この記事では、法人化を検討するための判断基準を整理します。

個人と法人の税率比較

法人化を検討する最大の動機は税率の差です。

個人の所得税(累進課税)

個人の不動産所得は給与所得などと合算され、累進税率が適用されます。

課税所得所得税率住民税込みの実効税率目安
195万円以下5%約15%
195万〜330万円10%約20%
330万〜695万円20%約30%
695万〜900万円23%約33%
900万〜1,800万円33%約43%
1,800万〜4,000万円40%約50%
4,000万円超45%約55%

課税所得が高くなるほど、税負担が重くなります。

法人税率

法人税は課税所得に対して一定税率が適用されます。

法人の種類税率目安(法人税+住民税+事業税)
中小法人(資本金1億円以下)所得800万円以下約21〜24%
中小法人の所得800万円超約33〜34%
大法人(資本金1億円超)約33〜35%

課税所得が800万円以下の中小法人は約21〜24%の実効税率が適用されます。個人の場合、課税所得が900万円を超えると税率が33%(住民税込みで約43%)になるため、この水準を超えると法人化のメリットが出てきます。

ℹ 法人化が有利になる課税所得の目安

一般的に、個人の課税所得が700〜900万円を超えるあたりから法人化の節税メリットが具体的になってきます。ただし、法人設立・維持コストとの兼ね合いがあるため、課税所得800万円前後が検討開始の目安とされることが多いです。

法人化のメリット

1. 税負担の軽減

前述の通り、課税所得が一定水準を超えると法人の方が税率が低くなります。さらに以下のような節税手段も活用できます。

  • 役員報酬として所得分散: 配偶者・家族を役員にして給与を支払うことで、所得を分散して課税を下げる
  • 退職金の積立: 法人で小規模企業共済・退職金を積み立て、将来の受取時の節税が可能
  • 経費の範囲拡大: 生命保険・福利厚生・社用車なども法人経費として計上しやすい
  • 繰越欠損の延長: 赤字を10年間繰り越せる(個人の青色申告は3年)

2. 融資の選択肢が広がる

法人化により事業向けの融資が利用できるようになります。

  • 法人向け事業融資の取り扱いが増える
  • 個人の信用力(属性)だけでなく、法人の収益力・決算内容で評価される
  • 個人の借入限度(年収の倍率基準)から切り離して融資を受けられる可能性がある

ただし、設立直後の法人は決算書の実績がないため、当初は融資を受けにくいケースもあります。

3. 相続対策になる

不動産を法人で所有すると、相続時に不動産そのものではなく法人の株式で相続できます。株式は適切な評価・分割がしやすく、相続対策として活用されることがあります。ただし、この点は相続税の専門家への相談が不可欠です。

4. 出口戦略の柔軟性

法人で物件を売却した際の利益(売却益)は、法人税の課税対象になります。個人の場合、短期譲渡(5年以内保有)は税率が39%前後と高いのに対し、法人は保有期間にかかわらず一律の法人税率が適用されます。短期での売却益が多い場合は法人が有利なケースがあります。

法人化のデメリット

1. 設立コストがかかる

法人設立には初期費用が必要です。

費用株式会社合同会社(LLC)
登録免許税15万円6万円
定款認証費用約5万円不要
定款印紙代4万円(電子定款なら不要)不要
合計目安25〜30万円程度6〜10万円程度

不動産投資では合同会社(LLC)が設立コストが安く、設立手続きも簡単なため選ばれることが多いです。

2. 毎年の維持費が発生する

法人を維持するには、利益が出ていなくても均等割(住民税の固定部分)が発生します。

均等割(資本金1,000万円以下・従業員50人以下の場合の目安):
  道府県民税: 約2万円/年
  市町村民税: 約7万円/年
  合計: 約7〜9万円/年(地域により異なる)

その他の維持費:
  税理士費用: 20万〜50万円/年
  社会保険料: 役員報酬を支払う場合に発生

赤字でも均等割は払い続ける必要があります。これが法人化のランニングコストです。

3. 個人から法人への物件移転コスト

すでに個人で物件を購入した後に法人化する場合、個人から法人へ物件を売却する形で移転が必要です。この際に:

  • 個人に譲渡所得税が発生する可能性がある
  • 不動産取得税・登記費用が再度かかる
  • 融資を法人に引き継ぐには金融機関との交渉が必要

このため、法人化を検討するなら、なるべく最初から法人で物件を取得する方が移転コストを回避できます

⚠ 法人への物件移転は税コストが重い

個人から法人への不動産売却は、個人に譲渡所得税が発生する可能性があります。また、適正価格(時価)での売買が必要で、低廉譲渡や高額譲渡は税務上の問題が生じます。移転を検討する場合は必ず税理士に相談してください。

法人で買う際の注意点

融資の受け方が変わる

個人の場合は住宅ローンやアパートローンを使いますが、法人の場合は事業融資になります。

  • 金利が高くなるケースがある(事業融資は住宅ローンより金利が高いことが多い)
  • 審査が法人の事業計画・決算内容ベースになる
  • 個人の連帯保証を求められるケースが多い(代表者保証)

設立直後の法人は決算実績がないため、当初は融資審査が厳しい金融機関もあります。

社会保険の加入義務

役員報酬を支払う場合、法人は社会保険(健康保険・厚生年金)の加入が義務です。社会保険料は労使折半で相当額の負担になります。役員報酬の設定額は節税効果と社会保険料負担のバランスで考える必要があります。

個人(課税所得1,000万円の場合)

所得税率(1,000万円): 33%(住民税込み約43%)
節税手段: 青色申告控除65万円まで
赤字繰越: 3年間
社会保険: 国民健康保険
相続対策: 現物分割のみ
手続きの複雑さ: 低い

法人化後(課税所得1,000万円の場合)

法人税実効税率: 約33〜34%(800万円超)
800万円以下部分: 約21〜24%
節税手段: 役員報酬・退職金・経費拡大
赤字繰越: 10年間
社会保険: 厚生年金(役員報酬に応じて)
維持費: 年10〜60万円以上

法人化を検討するタイミングの目安

法人化を具体的に検討すべきタイミングの指標:

以下のいずれかに該当する場合は税理士への相談を推奨:

□ 個人の課税所得(給与+不動産所得)が800万円を超えた
□ 物件数が3棟・10室以上になってきた(事業的規模)
□ 年間の家賃収入が1,000万円を超えた
□ 今後さらに物件を増やす予定がある
□ 相続対策を考え始めた
□ 法人の融資枠を活用したい
□ 配偶者・家族を役員として所得分散したい

法人化前後の手取りを試算する

現在の課税所得・物件収入を入力して、個人と法人の税負担・手取り額の違いをシミュレーションできます。

個人・法人の手取り額を比較シミュレーションする

法人化の手順

法人化を決めた場合の大まかな流れです。

  1. 税理士への相談(最初のステップとして必須)
  2. 法人形態の選択(株式会社 or 合同会社)
  3. 定款の作成・法務局への設立申請
  4. 法人口座の開設
  5. 税務署・都道府県・市区町村への届出
  6. 社会保険の加入手続き
  7. 物件の取得方法の検討(既存物件の移転 or 新規取得から法人名義)

特に「既存物件を法人に移転するか」「新規取得から法人にするか」は税コストに大きく影響するため、税理士と詳細を詰めることが重要です

まとめ

  • 個人の課税所得が800〜900万円を超えたあたりから法人化の節税メリットが具体的になる
  • 法人化のメリット:税率の低下・役員報酬による所得分散・経費拡大・相続対策
  • 法人化のデメリット:設立コスト・年間維持費(均等割+税理士費用)・社会保険負担
  • 設立直後は融資審査が厳しい場合があり、事前に金融機関へのヒアリングが必要
  • 個人から法人への物件移転は譲渡税・登記費用・融資組み替えのコストがかかる
  • 法人化は最初から法人名義で物件を取得する方がコストが低い
  • まず税理士への相談が第一歩。個人の状況によって最適なタイミングが異なる

関連記事:不動産投資の節税効果 / 不動産投資の確定申告の流れと必要書類 / 2棟目の物件を買うタイミング / 不動産投資の出口戦略

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